Robotコンサル小西の超・思考法

2011.03.28
第24回 災害時におけるロボットの実用化に向けた課題

 3月11日に発生した東日本大震災で被害に遭われた皆様へお見舞い申し上げます。1日も早い復興をお祈りして申し上げます。

 今回は震災発生以来、運用面をはじめ遠隔操縦タイプのロボット(レスキューロボット)を取り巻く様々な課題があがったことを受け、「災害時におけるロボットの実用化に向けた課題」と題して、私見を述べさせてもらいます。

 東北地方の被災地の状況や、大地震と津波で大きなダメージを受けた福島第一原発の状況が日々刻々と明らかになってきました。原発の現場では、目に見えない放射能の恐怖が迫る中、人による地道な情報収集と復旧活動が続いています。「安全」と思われていた職場が、地震と津波により一転して人にとって「危険」箇所へと変化したにもかかわらず、結局は、ロボットではなく人が作業しなければならない現状を目にし、次のことを考える必要があります。

【1】災害時に、ロボットに対して本当に必要とされる役割とは何か?
【2】ロボットを災害復旧システムの運用プロセスに組み込んでもらうためには、どのような観点や行動が不足しているのか?

 まず、今回の大震災に関連したロボットの話題に少し触れておきます。
 『国際レスキューシステム研究機構(IRS)が、大震災の発生直後から、被災地域での調査活動の実施を模索すると同時に、東北大学と千葉工大、長岡技科大、新潟工科大学(後者の2大学は後方支援)が連携して、仙台市内にQuince(クインス)や能動スコープカメラなどを持ち込んだ』というニュースがありました。まだまだ余震が続く危険な中でも、米テキサスから帰国されてすぐに、行動に移そうと現場へ向かわれた、レスキューロボット開発に携わる研究者の皆様の強い意志と情熱に尊敬の念を抱いています。

 ほかには、米iRobot(アイロボット)社が陸上自衛隊の要請を受けて、軍用ロボット510 PackBot(パックポッド)と710 Warrior(ウォーリアー)の2種を日本に輸送中とのニュースもあります。これらのロボットは、福島第一原発での活用が想定されており、原発内の偵察やホースの運搬などを遠隔操縦で行うと予想されます。わが国にとって国難ともいえる未曾有の大災害において、日本のロボットではなく米国のロボットが活用されることに少々複雑な思いがありますが、2001年の米国同時多発テロでの活動など、すでに災害現場で運用実績を積んでおり、大きな戦力になると信じています。
 その一方で、放射能で汚染された環境下で、ロボットの頭脳となるパソコンなどの制御機器類が正常に機能するかが懸念されます。

 このようなロボット関連のニュースがありましたが今後、遠隔操縦タイプのロボットを災害現場の要所で活用してもらうために、そして、災害復旧時の資機材の1つとして社会に認知してもらうために、ロボット研究者ならびにロボットビジネス関係者に求められることは何でしょうか? ここから本題となりますが、ユーザー(高度救助隊や消防隊など)とメーカー両者の立場から、そして、ロボット操縦者の視点から述べさせてもらいます。
 なお、震災発生時の被災自治体の受け入れなど行政側の課題については、専門家の方に譲らせてもらいます。

ロボを災害復旧プロセスに組み込んでもらうには

1.運用するユーザー側として
●ユーザーとしては、まず災害対策時に判断を下すための材料(情報)として何が必要かを捉えておく必要があります。その情報をもとに人が判断し、アクチュエータを備えたロボットがどのような作業を行うべきかを整理します。

 具体的な作業は、災害対策フローを4要素【現象発生(認識)】→【データ・情報収集(入力)】→【人が判断】→【対策実行(出力)】に分け、人による判断以外の3つの行為に対し必要とされる具体的な任務を整理し、人とロボットそれぞれに役割を分担していきます(図1参照)。これらの条件出しのためには、想定される災害発生後の環境変化を事前に把握しておく必要があります。このプロセスを経れば、開発すべきロボットに求められる機能が絞られてくるはずです。

konishi24・f1.JPG図1 災害時、人が対策を決断するまでのフローとロボットが寄与できる箇所

 さらに、枝葉の部分として、
○ロボットを操縦でき、かつ簡単なメンテナンス管理を実践できる人材を育成する。
○ロボットとその操縦者を、日常の避難訓練・危機想定訓練に参加させる。
○ロボット出動許可の決定を誰が下すのか? その決裁者の順位付けを明確にする。
○ロボットの運用方法を、メーカーと一緒になって、頭をつき合わせて、開発初期段階から参画してつくり込む。
という取り組みが必要です。ロボットのことを最も理解しているのはメーカーの開発者ですが、使われる環境のことを最もよく知っているのはユーザーであり、彼らとともに検討することが求められます。

2.ロボット開発メーカーとして
 次に、上記の項目をユーザーに実施してもらうために、ロボットメーカーとして求められる姿勢や取り組みをまとめてみます。
●メーカーの開発メンバーが、ユーザーと一体となり、開発~導入~運用まで一括して『共創』する!というスローガンを持つことが大切です。さらに共創を進める中で、両者で詰めてきた内容を深く理解し、ロボットの操縦方法をユーザーに教育できる人材の育成に取り組むことも忘れてはいけません。

●作業フロー構築に、時間をかけて取り組むことが重要です。開発段階から、このロボットがどのような場所で、どのように保管され、また出動する際は、どのような形態で現場まで送られるのかを、ユーザーと確実に決定しておきます。保管倉庫を出てから現場で作業を実施し、その後メンテナンスを実施、元の保管場所まで戻ってくるところまでを一連の作業フローとして捉えなければなりません。
 例えば、毒性の高い気体が充満した空間で作業したロボットが任務を終えて戻ってきた場合、どのようなプロセスを経て元の保管場に戻すのかなど、想定される課題を1つずつ地道にクリアしていくことが重要です。サービスロボット開発の多くが、ロボットの電源を入れてから切るところまでしか作業フローを構築していないという問題を踏まえての提言です。

●多彩な機能を実装(集中)したロボットの開発を前提とし、かつ環境対応における障壁が高度な場所での使用を想定した場合、ロボットの要求仕様は複雑かつ高度になります。さらに様々な機能の搭載により、必然的に本体サイズも大型化することになりますが、これでは活用範囲が限定されてしまい、費用対効果が見合わなくなります。ゆえに、機能を集中したロボットよりむしろ、機能を分散した複数ロボットによる連携システムを検討する方がベターです。

 筆者の経験上、ユーザーはロボットメーカーに対しロボットという『個』にまとめて欲しいとは考えていません。作業者の安全・安心が確保でき、極度の緊張下でも適切に運用できる資機材が欲しいだけなのです。それを実現する要素としてロボット技術(RT)が不可欠なことは言うまでもありませんし、こうした考えで開発に臨む必要があります。

●さらに今後の話として、駆動系と機能ユニットに分け、専門知識や技術を有する産学が共通したソースのもとで個別に開発する体制を構築してはいかがでしょうか。併行して、ロボットシステムインテグレータにより駆動系と機能ユニットの統合化デザインを検討します。理想の最終形としては、ユーザー側で駆動系に搭載する機能を選択し、ブロックをはめ合わせるようなイメージです。容易に機能ユニットを取り付けることができる、すぐに使えるようなコンセプトが重要と考えます(図2参照)。

konishi24・f2.JPG図2 駆動系と機能ユニットを分離し、それぞれ専門的にユニットを開発するイメージ
災害対応時に、必要な機能をユーザー自身が組み合わせてセットすることができれば、必然的にユーザビリティは非常に高いものとなる。

●災害時、遠隔操縦ロボットを活用する目的を大きく分類すると、次に挙げる3つの事象を「移動」させるためといえます。つまり、人が活動するリスクが高い環境下で、
(1)情報の移動/伝達(例:現場の監視、情報収集)
(2)モノの移動/運搬(例:現場の大気・物質の収集、瓦礫の撤去、必要物資の運搬)
(3)人の移動/搬送(例:人の救出、現場への人の搬送)
を実現することにあります。

 したがって、(1)~(3)それぞれの役割に特化した駆動系と機能ユニットを開発する必要があります。特に、機能ユニットは(1)~(3)それぞれの項目に対し、単一目的を確実に実現できるようなユニット化を意識して開発することが重要です。
 (1)~(3)における機能ユニットの具体例としては、
(1)情報の移動/伝達:高解像監視ユニット、放射能計測ユニット、大気温湿度計測ユニット、赤外線サーモグラフィーユニット、非破壊検査ユニットなど
(2)モノの移動/運搬:ロボットアームユニット、流体(大気)収集ユニット、物体収集ユニットなど
(3)人の移動/搬送:捕捉ユニットなど
があげられます。
 加えて、共通ユニットとして、リアルタイムで遠隔操縦の目の役割を果たすカメラ+無線画像送信ユニットは必須となるでしょう。

●駆動系に関しては、想定される様々な災害環境を強く意識する中で、それらに適するロボットの外観サイズを3種程度に限定し、踏破性の高い駆動系(クローラ式 or 脚式 or 車輪式 or これら3つを組み合わせたもの)モジュールを開発する必要があります。
 まず取り組むべきは、「世界NO.1の踏破性!」を謳えるクローラモジュールの開発であると私は考えています。ロボカップのレスキュー部門の世界大会で優勝経験がある開発チームが国内にはあるのですから無理な話ではないはずです。

●併せて、飛翔型IRTプロダクトの開発にもっと力を入れるべきです。飛翔系には、流体の外乱に対抗するロバスト性の確保など様々な課題がありますが、今回の福島第一原発で見られた、原子炉建屋から煙が上がってもすぐに原因を確認できない状況というのは、決断の遅れを招くだけです。「三現(=現場・現物・現象)を把握せずして、的を射た対策は打てません。
 今回は、米軍に無人偵察機「グローバルホーク」による情報収集を要請したというニュースがありました。国産に固執するわけではないですが、わが国オリジナルの飛翔型災害対応偵察ロボットの開発に力を入れてもよいはずです。

3.ロボット操縦者の視点から
●ロボットの操縦者の視点で考えると、ロボット操縦時のコントローラとインターフェースおよびアイコンデザインを早期に標準化すべきです。ユーザー側からすれば、信頼性および耐久性さえ確保されていれば、ロボットの中身(ハード/ソフト)は何でもよいといっても過言ではありません。ロボットの操作教育を受け、認定を受けてさえいれば、どのメーカーのどのロボットでも操縦できるような仕組みをつくることも大切です。

ロボットを一般生活者へ啓蒙するには?

 筆者が参画したロボット開発プロジェクトの1つに、大和ハウス工業の「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」〔「サービスロボット市場創出支援事業」(経済産業省、2006~2007年度)にて1号機を開発〕があります。2006年10月の着手から、たび重なる改良のすえ実運用可能な住宅床下点検ロボット「moogle(モーグル)」が完成し、4月からmoogleによる点検・診断作業が実施されます。昨年10月にmoogleの操縦を体験させてもらいました。実用化というレベルで、非常に完成度が高いという印象を受けました。
 moogleの実用化は、クローラ型の遠隔操縦ロボットが、多くの一般生活者の目に触れるきっかけとなると期待しています。なぜなら、それは一般社会へのロボット啓蒙活動といえるからです。

 ロボットは、まだまだ技術者や研究者の世界の存在であり、一般社会に浸透していません。今後万一、大きな災害が発生したとき(もちろん、もう起きてほしくないですが)に、「災害現場に人が近寄れないのなら、床下点検ロボットのようなロボットを出動させて情報収集を行ってほしい」という声が、専門家だけでなく、一般生活者や自治体から声が上がることを望んでいます。そして、その声がわが国をさらなるロボット産業大国へと導く礎になると信じています。


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●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/




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